09. 脳血管障害、中枢障害

めまいというと、脳血管病変を否定するために、ルーチンに脳画像検査が実施され、現在もこの風潮はつづいています。実際には、耳鼻科のめまい外来、救急外来、総合診療科を問わず、脳血管障害など中枢障害に起因するめまいは、全めまい患者の5 %に達しません。めまい外来の疾患統計の報告で、時に中枢疾患の高い割合が報告されますが、合併症に脳梗塞の既往があると、中枢疾患と分類するためです。大学病院や総合病院の救急外来では、クリニックよりも重症例の受診する確率は高いに違いありません。しかし、脳神経症状(立てない・歩けない、手足の運動や知覚マヒ、口がもつれる、顔面神経マヒ、物が二重に見えるなど)がなく、めまいだけが脳血管障害で出現する可能性は低いといえます。

中枢障害45名の年齢分布

脳血管障害、中枢障害45名の既往・合併症(重複あり)

上図、上段はめまいやゆらぎの原因が中枢障害にあると診断した、45名の年齢分布です。男性24名、女性21名で、中高年に集中しています。既往や合併症(上図、下段)は、高血圧の合併が頭抜けて高く、脳梗塞、脳出血、高脂血症、糖尿病、肥満がつづき、脳血管病変や動脈硬化を促進する合併症が多く見られます。他には、多発性硬化症、くも膜下出血、脊髄小脳変性症、パーキンソン、癲癇、肺癌の脳転移、リューマチ性多発筋痛症、聴神経腫瘍などでした(重複あり)。

脳血管障害、中枢障害45名の主訴(重複あり)

主訴はゆらぐが最多で、めまい、フワフワ、歩行異常、フラフラ、転倒、意識喪失発作、視野異常、焦点が合わない、頭がぼーっとするなどでした。お年寄りは、運動の少ないライフスタイルから、浮遊耳石症の合併が多く、脳血管障害や中枢障害に合併すると、バランス障害がより高度で、長引きやすくなます。以下に症例をしめします。

症例:82歳女性

症例:59歳男性、事務職

第一例は高血圧、脳梗塞、右頸動脈狭窄を合併したお年寄りで、運動制限を加速する関節リューマチ、下肢のシビレをきたす脊柱管狭窄も合併しています。運動量は少なくなり、良性発作性頭位めまい症(BPPV)のリスク要因を多くかかえます。明らかな脳神経症状や、中枢疾患を疑わせる症状はありませんが、めまいの直接の原因がBPPVであっても、脳血管障害の合併は症状を、治りにくくする可能性があります。

第二例もめまいの直接の原因はBPPVですが(事故の衝撃による耳石脱落か)、事故後、意識消失があり、軽微な脳障害をともなった可能性を否定できません。一般に事故がらみの症例は症状が遷延し、不定愁訴も多く、客観的な異常を特定できなくても、すっきりと治癒しない例が多いのは事実です。いわゆる五感は感覚器の直接の反応ですが、平衡覚はまったく異なります。

体のバランスは、内耳前庭器からの体の移動情報(慣性入力)、視覚からの周囲の静止情報(大地、室内)、関節や足底からの固有覚情報(圧、傾斜、不安定など)が、脳幹―小脳系のやりとりで統合され、最適の指令が脊髄に出力され、四肢の筋骨格系を駆動しています。耳石器や三半規管からの移動情報にエラー(浮遊耳石症、前庭器の機能低下)があると、誤った情報をもとに脊髄への指令が出され、バランスが崩れます。前庭器の機能が正常でも、視覚情報の不足や錯覚で、誤った指令が出されます(乗り物酔い)。さらに、脳幹―小脳系に血管障害や、ネットワークの不良があれば、最善の指令は望めません。

若い世代は、眼をとじ片脚で立つのは容易で、1分ほどもこの状態を保てます。しかし、60代以降では、裸眼で立つのは可能ですが、閉眼では多くの場合困難です。全体としてのシステムの余力が低下しているためです。

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