01. 頭抜けて多いめまい

1)誰もがなり得る病気

10,607名の疾患内訳

 浮遊耳石症8,178名の年齢分布

めまいメニエール病センターの集計でもっとも多いめまいは、浮遊耳石が原因となるめまいや耳症状(良性発作性頭位めまい症、浮遊耳石症)です(上図、上段)。年々増加し、実に80%前後を占め、大多数がこの病気と言っても過言でありません。全世代に見られ、女性が男性の2.4倍です(上図、下段)。以前は高齢者の病気でしたが、近年は比較的若い女性の病気になっています。

2)症状

他疾患を合併しない浮遊耳石症3,003名のめまいの性質

典型例は起床や就床、寝返り、洗顔で短時間、天井がグルグル回り、あるいは奈落にしずむ感じをおぼえます。しばしば吐き気や嘔吐をともないます。歩くとフワフワして足元がゆらぎ、まっすぐ歩けなくなります(上図)。これら症状は日毎に、また一日の中でも変化し、体調不良や不眠で訴えが出やすくなります。後頭部や頸、肩のこりや痛みを訴えます。以前は頸性めまいの名称があり、頸のこりが原因でめまいがおこると考えられていました。これは誤りで、めまいが頸や肩のこりの原因になるのです。めまいが消失するとこりも消えます。半数弱の方が、耳の詰まる感じ、耳鳴り、音の響きや割れ、聞き辛さ、耳痛など耳症状を訴え、検査でしばしば聴力の低下を示します(下図)。

ひどいゆらぎや歩行不安定を示し、ときに脳梗塞を疑われることもあります。良性発作性頭位めまい症の診断基準は、①回転性めまいが突然おこり、②短時間で治まり、③耳症状をともなわないことです。しかし、めまいの性質はさまざまで(上図)、長く続き(数時間)治療に抵抗する例も稀でありません(後の症例)。めまいの前後あるいは単独にも、耳症状を高率に訴えます(下図)。耳症状がなぜおこるのか不詳ですが(次項参照)、浮遊耳石に原因することは確かです。良性発作性頭位めまい症の再発予防策で、早急に軽快・消失するからです。「浮遊耳石症」の名称がより適切と言えます。めまいと耳症状を反復するため、おびただしい数の患者さまがメニエール病と誤診されているのが現状です。

他疾患を合併しない浮遊耳石症3,003名の耳症状の性質

症例:34歳主婦、事務職、育休中

この方は間違って普及した、右下30秒、左下30秒の反復を指導され、症状をこじらせて2011年に受診しました(上図)。典型的な眼振がありましたが、初回はすぐに改善しました。その後2013年に再発し、浮遊耳石置換法を実施しましたが軽快せず(両側性の可能性)、軽快まで連日のように受診しました。2018年4月に育休中に再々発し、治療に抵抗しましたが、10日ほどで軽快しています。BPPVでも、回転性めまいが数時間つづく例は珍しくありません。

3)職種と生活習慣

浮遊耳石症4,050名の職種

浮遊耳石症4,094名の有害生活習慣

職種はデスクワーク、通勤のない無職・休職者、専業主婦、立ち仕事の販売業、作業が上位をしめます(上図)。生活習慣では、運動しない、長いデスクワーク、低い枕、同じ姿勢で眠る、低頭位でテレビやスマートフォンを観る・読書する(上図)が有害です。腰痛があると同じ姿勢で眠る傾向があります。現代人は歩きが少なく、パソコン・スマートフォン漬けの生活です。昼間は直立姿勢で浮遊耳石が沈殿し、夜、床につくと頭が低くなり、さらに低い半規管に移動します。不眠症は症状を出やすくするようです。

4)再発防止と治療効果

理学療法(エプリー法)の手順

めまい発作直後では、検査で典型的な眼球運動が観察され、理学療法(浮遊耳石置換法:エプリー法、レンパート法)で、ただちに浮遊耳石を半規管外に排出できます。上図は浮遊耳石が右後半規管に貯留している場合の、理学療法(エプリー法)の手順をしめします。しかし、受診時にこの治療が適用となる例は、全体の20%にもとどきません(下図、上段)。理学療法が有効でも、有害な生活習慣を改めないと再発します。投薬は無効です。多数の患者さまの生活習慣の集計結果から、治療や再発予防には、浮遊耳石の沈殿予防、撹拌の促進がきわめて有効と判明しました。当施設では、浮遊耳石が原因の患者さまには、めまいか耳症状かを問わず画一的な指導しています(下図、下段)。

BPPV、浮遊耳石置換法の内訳(n=507)

生活指導(浮遊耳石の沈殿予防・撹拌)

本治療の原理は、日中、できるだけ浮遊耳石が沈殿しないよう、撹拌をうながす歩きや体操をおこない、低頭位の機会をへらし、眠っている間に浮遊耳石が半規管に沈殿しないよう、頭を少しだけ拳上することにあります。本法はきわめて有効で、初診1ヶ月以内に89%が、2ヶ月以内に95%が軽快・治癒し、以降の通院が不要となります(下図)。患者さまの体験から、速歩、ランニング、エアロビックダンスは効果的ですが、動作のゆるいヨガ、フラダンス、太極拳、同じ動作を反復するランニングマシーン、低頭位のストレッチ、さらに、テニス、サーフィン、クラシックバレー、社交ダンスは効果が薄いようです。

当初、縄とびもすすめましたが効果がなく、同じ動作の反復は、浮遊耳石の撹拌効果が少ないようです。同じ理由で、体操を同時に何回も繰り返すのは、かえって有害なことが判明し、ラジオ体操をしないようお話しています。数年前まで、上図の体操の最後に、ジャンプを入れていましたが、上下の衝撃で、耳石の落下を促進するらしく、有害なことが判明しました。明らかになったのは、症状が改善しない患者さまに、体操をしてもらうと、同時に体操の動作をくり返したり、かかと上下でなく、ジャンプする方々だったのです。最近は、初診で体操を実演し、再診で患者さまに実演してもらって、確認しています。

受診回数(1回/月、浮遊耳石症1,889名で調査)

02. 日毎に変わる耳鳴り、聞き辛さ、耳閉塞感

日毎に変わる耳鳴り、聞き辛さ、耳閉塞感

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