脳血管障害はめまいとどう関わるか

めまいというと、しばしば脳血管病変を否定するために、ルーチンに脳画像検査が実施され、現在もこの風潮はつづいています。しかし、実際には、耳鼻科のめまい外来、救急外来、総合診療科を問わず、脳血管障害に起因するめまいは、全めまい患者の5 %にも達しません。めまい外来の疾患統計の報告で、時に中枢疾患の高い割合が報告されますが、合併症に脳梗塞などがあると、中枢疾患と分類するためです。もちろん、大学病院や総合病院の救急外来では、クリニックよりも重症例の受診する確率は高いに違いありません。しかし、脳神経症状(立てない・歩けない、手足の運動や知覚マヒ、口がもつれる、顔面神経マヒ、物が二重に見えるなど)がなく、めまいのみが脳血管障害で出現する可能性はほとんどありません。教訓的な症例を以下に紹介します。

症例1の重心動揺記録
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症例1:84歳男性、無職.3週間前に起床でゆらぎ、2014年4月に受診しました。問診から、生活習慣で長く坐り、しばしば昼も横になり、腰痛があるためほとんど外出して歩かない、ことが判明しました。目をつぶり50歩の足踏みをしてもらうと、ゆらぎ転倒しそうになり、重心動揺記録も年齢を考慮しても大きくなっています(上図、左上)。眼球運動の検査(頭位眼振検査)をすると、良性発作性頭位めまい症に特有な回旋性眼振が観察され、理学療法(浮遊耳石置換法、エプリー法)を実施しました。再発予防の生活指導を実施後も、ゆらぎがつづき、夜間トイレに立って転倒しています。

その後も軽快と増悪を反復し、7ヶ月後にやっと安定し(上図、右下)、以降受診しなくなりました。たとえ回転性めまいがおきても、お年寄りは回転感覚を感じにくく、突然、大きくゆらぎ、反射機能が低下しているため、転倒してしまいます。高齢な上にめまい感覚を欠き、大きなゆらぎがあると、脳の病気のためと考えがちです。しかし、本例では特徴的な眼振を確認でき、高齢者でも時間はかかるものの、生活習慣の改善で軽快することが裏づけられました。

症例2(左)と症例3(右)の重心動揺記録
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症例2:82歳女性.2008年初め、ゆらぎのために受診しました。高血圧、脳梗塞、右頸動脈の狭窄のほか、関節リューマチ、脊柱管狭窄症、不眠症があります。特徴的な眼振所見はありませんが、生活習慣で低い枕、腰痛、横になってテレビを観る、長く坐る、外出が少ないがありました。足踏みでゆらぎ、閉眼で重心動揺記録がいちじるしく増大していました(上図、左上段、一辺32 cm)。良性発作性頭位めまい症と診断し、再発予防の生活指導を実施し、同年5月には軽快し(上図、左中段)受診しなくなりました。

しかし、2013年11月にふたたびめまいで受診しています(上図、左下段)。本例も、脳血管障害がめまいを誘発したのではなく、関節リューマチと脊柱管狭窄の合併のために、歩きや運動が少なくなり、その結果、良性発作性頭位めまい症が誘発された、と解釈されます。

症例3:73歳男性、無職.2,3年前より前屈、姿勢変化でめまいあり、日により変動し、2009年1月内科より紹介受診しました。高血圧、多発性脳梗塞、脳MRIで右頸動脈の完全閉塞、左内頸動脈も高度狭窄を合併していました。ルーチンの検査で異常なく、重心動揺記録がやや増大している程度でした(上図、右上、一辺8 cm)。生活習慣で、同じ姿勢で眠る、長く坐る、歩き少ないがありました。再発予防の生活指導を実施し、その後受診しませんでしたが、3年後の2012年3月、夜間トイレに立って転倒して肋骨骨折し、ふたたび受診しました。同年5月にもトイレに立って転倒しています。その後、体操、毎日の歩きを実践して軽快し、7月以降、受診していません。

本例は高度の脳血管障害を合併しており、トイレに立っての転倒歴は中枢性めまいを思わせます。しかし、症例1で記したように。お年寄りは回転性めまいの感覚が希薄なため、また反射機能が低下しているために、防御体制をとれず転倒してしまうのです。普通は転倒時、防御姿勢をとるため、肋骨骨折をきたすことは考えにくいからです。もちろん、脳血管病変の合併が、中枢の姿勢制御の予備力を低下させ、転倒しやすくしている可能性は十分にあります。

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