若い世代のめまい

一般に乳児、幼児はめまいを訴えません。学童もめまいの訴えは少なく、当センターの最新集計8,400余名中、12歳以下は16名(全患者の約0.2 %、男性9名、女性7名)にすぎず、全員が良性発作性頭位めまい症でした。生活習慣では大半が、外で遊ばず、横になってテレビを観る、ゲームをするなど運動不足が原因でした。再発予防の生活指導を実践すると、1ヵ月後には症状が改善しています。12~19歳も124名約1.5 %にすぎず、男性が36名、女性が88名でした。最多は良性発作性頭位めまい症85名で、男性の67 %、女性の69 %を占め、この割合は全世代集計や高齢者の割合より少し少ないだけです。

ついで、女性では起立性調節障害9名、メニエール病7名、低音障害型感音難聴5名、心因性めまい3名、下船病、前庭神経炎、不明が各1名でした。男性ではメニエール病5名、乗り物酔いと起立性調節障害各2名、低音障害難聴、遅発性内リンパ水腫、両側感音難聴各1名でした。起立性調節障害(低血圧)はしばしば頭痛を訴え、朝起きにくい、ゆらぐ、長く立っていると気分が悪くなる、しばしば休学する、の訴えで受診します。登校しても、気分不快で途中で下校することも珍しくありません。体質と思われがちですが、毎日よく運動(少し息の上がる有酸素運動)すると、筋肉が酸素を必要し、心臓の反応性が向上し、早晩改善します。この病気でも不活発な生活が有害なのです。

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学童期でかかりやすい乗り物酔いは、小児で受診した患者さまは少なく(20歳未満で2名のみ)、全患者7,751名中で11名0.1 %のみでした。しかし、実際には、良性発作性頭位めまい症になると、浮遊耳石が加速・減速・遠心力で移動し、乗り物酔いにかかりやすくなり、しばしば「最近、乗り物で酔いやすくなった」という訴えを聞きます。

この乗り物酔いには、生物進化の秘密がかくされています。ヒトばかりでなくサカナを含め脊椎動物は、すべて乗り物酔いにかかります。不快な症状は、生物にとって大切な目的があるからです。実験的に乗り物酔いをおこすと(回転椅子上で頭部を前屈、左傾斜、後屈、右傾斜、前屈とつづける)、酔いやすさに個人差の大きいことがわかります。刺激1分で吐きそうになる人から、刺激10分でやっとこの状態になる人までいます(上図)。

実験的動揺病で、揺らぎの起こる割合と酔いの起こる割合
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サカナの祖先で、周囲の水波動センサの側線器と水が頭の中に沈みこみ、身体のバランスのセンサ、前庭器として進化しました。回転運動センサの三半規管は、静止した空間で自分が動くと、水の慣性で前庭器が刺激され、ジャイロの働きをします。バケツを回転しても、水に浮かんだ葉が空間的に動かないのと同じ原理です。耳石器は、重力や直線加速度を統合した信号を脳に送ります。静止した空間内では、これらの信号に身体が従えば、必然的に安定した姿勢がえられるよう、進化の過程で神経回路が適応してきました。

しかし、移動している空間内(自然界では、移動中の獣の母親にしがみつく子、川の激流に流されるサカナ、突風にあおられるトリ、揺れる枝上のリスなど)では、前庭器は移動空間の直線や回転の加速に曝され、刺激されます。移動中に、静止した外界の情報が眼から入ってくれば、巧妙な脳内の仕掛けで、合目的な安定した姿勢がえられます。しかし、静止した外界の情報が入ってこないと、移動空間の加速のみに反応し、感覚と体の姿勢がこれにしたがい、めまい感覚がおこり、姿勢がゆらぐのです。波動センサの性質から、移動する閉鎖空間の中で、ゆらぎを避けることは不可能です。

この対策として、自然界では進化の過程で、動物が移動空間から遠ざかるよう、ゆらぎが嘔吐中枢を刺激し、不快によりその環境から逃げるよう、条件づける戦略がとられました。つまり、不快が警報として働いているのです。しかし、乳幼児期は抱かれたり、乳母車の移動が多く、不快の警報のスイッチは切られています。ちょうど、幼児から学童期にこの警報機構のスイッチが入り、思春期で成人と同じになります。

この乗り物酔いの舞台裏を、実験的に動揺病を誘発して(左右逆転眼鏡を装着して野外を歩く)、のぞくことができます。4歳児ではゆらぎが高率にみられますが、不快症状は観察されません。しかし、5歳児から不快症状があらわれ、学童期にその割合が大きくなってゆきます。逆に、ゆらぎのおこる割合は低下します(上図)。つまり、不快症状はゆらぎが暴走するのを防ぐ働きをしています。自然界で、身体がゆらぐと吐き気がおこり、移動空間から脱出する条件つけとして機能することが、実験で立証されました。

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